恋物語
「・・・・・・先生、お仕事中でした・・・・・・?」

小さく呟くように麻紀は尋ねた。

「まあ、一応教師なんでね」

煙草を吸いながら、先生は楽しそうに笑った。

「・・・・・・迷惑、ですよね」

ぽつり。麻紀が呟く。

「桜井?」

「すいませ・・・・・・・」

麻紀は急に自分が情けなく思えてきて、ぽろぽろと涙が溢れ出てきた。

訳も分からず流れる涙は、止めようにも止まらなかった。

どうしよう。

先生もきっと呆れている。

めんどくさい生徒だと思われる。

そう思うと、余計に悲しくなってきた。

しばらく準備室に麻紀の泣き声だけが響く。

先生は、何も言わなかった。

ただじっと、麻紀を見つめ、麻紀が泣き止むのを待っていた。

ようやく麻紀は落ち着きを取り戻し、鼻を啜って涙を拭いた。

すると、今までずっと黙っていた先生が、麻紀の頭の上に大きくて温かい手をのせて、

ぐいっと顔を近付けた。

「桜井、何かあったのか?」

先生は、本当に心配そうな表情をしていた。

麻紀は何て答えたら良いのか分からず、先生を見つめる。

「俺は、桜井がここにきてくれたこと、迷惑だなんて思っていませんよ。」

まるで幼児の相手をしているみたいだ、と麻紀は思った。

「どうしたんです、話しにくいことですか?」

先生が、ふわっと微笑った。

麻紀は、自分の顔がカァっと熱くなるのを感じた。

すると、麻紀のその小さな変化に気付いた先生は首をかしげた。

「顔が赤いですよ。ひょっとしたら熱かもしれません。ちょっと失礼・・・・・・。」

先生の大きな掌が美紀のおでこに触れる。

指先から微かに煙草の匂いがする。

麻紀は、全身の血が心臓みたいにドクドクいっているのを感じたが、先生にバレないよ

うに必死に平然を装った。
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