きみに守られて
父親にも語り始める。

(本気でね野球がやりたかった。
野球が好きだもん、
父さんこの時は優しかったね、
だから、
父さんに言われたとおり
隣の家で電話かりて、
名古屋のじいちゃんに電話して
言ったよ、野球部の事を
”こっちで野球道具、
全部そろえるから三万送って下さい”
って電話した。
いいよ父さん、
今日から野球嫌いになるから、
その三万円あげるから
だから母さんも僕も
ぶたないで・・・・ )


本格的な差別が始まる。
(なんかね、腕をね、
切りたくなったんだよ。
死にたいんじゃないよ。
ただね、腕を切ったらね、
安心できたんだよ。
隣の席の子が凄くびっくりしてた。
なんであんなに驚くのかな。
僕は不思議に思った。
だからね心配しないで、
死にたいんじゃないから)


(僕はお腹が減ると輪ゴムを噛む。
あんまりお腹が減りすぎると
母さんにねだる
”お菓子が食べたい”って、
母さんは
”これでなんか買ってこい!”って
1円玉を何枚かわたすけどね、

買えない・・

もっとねだると
1円玉を僕にぶつける・・・
母さんが一円玉を
思いっきりぶつける。

ごめんなさい・・
ごめなさいって・・
謝る・・。

ごめんなさい、
もう、投げないで、
1円玉が痛いよ。

母さんごめんなさい・・

でも・・
でも・・煎餅はご飯じゃないよ。
煎餅は飽きたよ、
白いご飯が食べたいよ・・・)


投げつけられ散らばった1円玉。

所々床がへこみ、波打つ汚れた畳。

擦り切れた哀れな畳の上で
1円玉を一枚づつ拾う。
肩を振るわせ
その小さな手でかき集めて、
枚数を数えてから
脅えながら母の前に差し出す。

母の機嫌が
簡単に直らない。

輪ゴムはユリツキの左手首に
いつもあった。

輪ゴムを噛み締める。
輪ゴムが切れてどこかへ
飛んでいく。

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