きみに守られて
ユリツキは足元に生えていた、
えのころ草を根元から折り
毛むくじゃらでふさふさの穂の匂いを嗅ぐ。

心地良い懐かしい香りが
喉の奥まで染みていた。

その香りがふいに
両目の周りの皮膚の下に
大量の涙が止めど無く溜まる感覚を
走らせた。

それはまだ幼い自分が
無邪気にえのころ草を振り回し
駆けていた過去が
脳裏に過ったからか、
ただふさふさと優しい手触りの
えのころ草に対して、
単純に嬉し涙を流したくなったのか、
目の前の女性に感謝したいが為に
涙を流したいのかは分からなかった。

ただ、
制御できないような熱い物が
溜まったのであった。


七星天道虫がえのころ草から
ユリツキの手に移動してきていた。

軽く息を吹きかけると
七星天道虫はサッと羽を広げ、
一瞬にして飛んでいった。

天道虫が飛びたった先を、
行き末を
無邪気にキョロキョロとした目で
探していたユリツキは
優里と目線が重なり、
照れ隠しに、
えのころ草を猫じゃらしの要領で
優里の鼻の前で左右に揺らす。

優里も香りを求めるように
鼻を近づけていた。

あごのラインが
美人画のように美しい線を描いている。

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