きみに守られて
ユリツキは自分が無力に思えた。
彼女を勇気付ける言葉が欲しいと願った。
だけど見当たらない。
優しい言葉も探した。
安っぽい物しか思い付かない。
これが砂を噛むようなことかと思った。

「ユリ兄は
植物も育たない荒れた大地を
緑一色にするような人生を
歩んでいるんだもんね。
始めから緑に囲まれた場所に
育った者には想像がつかない苦労だわ」
遠い目をしながら言った言葉は
独り言のようだった。

ユリツキは言う。
「あんまり誉めるなよ。
鼻がどんどんどんどん伸びてきたら
どうする?」

いいながらも気安く優里の頬を触った。
触った自分に戸惑った。

そして頬の、
信じられないほどの柔らかさに
弱く、儚く、神聖なものを感じ取り、
直ぐに手を離す。

優里はむっとした顔つきで
上目使いをして、
ユリツキの鼻を
御返しと言わんばかりに抓み返した。

優里の上目遣いは百発百中
男心を射止めんばかりの
最終兵器並の可愛さがあった。

ユリツキはわざと息を止める。
呼吸停止の素振りを見せながら倒れ込み、
テレビドラマに出てくる
ご臨終のシーンを真似て
カクッと死んだふりをする。

優里は手を合わせ拝んでいた。
< 116 / 198 >

この作品をシェア

pagetop