きみに守られて
チロという犬。
もっとも長く側にいた犬”チロ”。
遊び相手がいないぼくと
本気で遊んでくれていた。
日曜日はよく山に登った。
落ち着きが無く
直ぐ暴走していたよチロ。
山を駆け回るから姿を
見失うのは毎回だけど
”チロ!”って、
呼ぶといつも予想外の場所から
姿を現わしぼくを驚かした。
ぼくをからかって
楽しんでるようだったな。
ある日、チロはいなくなった。
毎日毎日心配した。
寂しくて辛くて
死んだのかなって考え始め、
涙もいっぱいでたな。
でも、十日ぐらいたった時、
家にヒョッコリ現われた。
チロの尻尾は腐っていた。
父さんがペンチで
尻尾の根元を針金で縛ったらしい。
たまらない程の悪臭がして、
通りがかる人みんな
鼻を押さえていたよ。
ぼくはなんとか
針金を外そうとしたけど、
チロは、痛いのか、
触られるのが怖いのか、
尻をぼくに向けなかった。
でも顔はいつものチロだった。
痛いはずなのに、
いつものチロだったんだ。
ぼくはチロの異臭に
囲まれていたいたけど
嬉しかった。
いつもの二人だったんだ。
けど、
父さんと母さんがチロに気づき
”臭いから離れろ!
そんな犬ほっとけ!”
と怒鳴り散らした。
自分たちがチロをこんな姿にしたのに、
なぜあれほど怒鳴れるのか
ぼくは不思議だった。
そして母さんは角材でチロを追い払い、
父さんは石を投げた。
チロは腐った尻尾をかすかに振って
ぼくに近づこうとしていた、
そんな気がぼくはしていた。
けど尻尾をすぐに動かなくなった。
父さんたちの仕打ちに
たえらずチロは逃げた。
チロは道端を
トボトボ逃げるように行った。
ぼくはずっとチロが見えなくなるまで、
チロの後ろ姿を見ていた。
ずっとずっと。
小さく、見えた、チロが、
チラっと後ろを見た、
見たと思った。
それが、
最後の生きたチロの姿だった・・。