きみに守られて
私は・・
私たちみたいな人間は、
円満で幸せな家庭に育った人は、
知らずにね、
幸せへの鈍感さが成せる強さを
身につけてるかもしれない。
そしてね、その逆に
幸せを
探求し続けなければならなかった人達にも
別の強さがあると思う。
でも私は
どう逆立ちしても
後者の強さは
身につける事は出来ないし・・
きっとユリ兄みたいな
後者の人達も
どんなに渇望しても
前者のような強さを
手に入れられないと思うの。
両極端に佇む人々。
だから引かれあう何かがある、
寂しさを知っているからこそ
強くなれる人、
寂しさを知らないままだから
強いままでいられる人。
そのどちらの人もいるから
きっと本当の強さには、
優しさという深みが
生まれると思うのね。
ねぇ・・・聞いてる?」
窓から零れいる
夕方近い日差しの中で、
椅子に腰掛けうつむき気味に、
ユリツキの顔をのぞき込む。
「でもね、偉そうに話したけど、
こんな私もね、
優しさについて
真剣に考えた事あったの。
中学生の頃病気でね、
自宅療養で良かったんだけど、
ベッドから起き上がれないくらい辛くて、
今思い出しても
記憶が途切れ途切れで・・
苦しく涙ばっかり出てた。
もう流す水分も無いってくらい
涙も枯れてた時、
気づいたの。
周りがとても優しくて、
優しさに包まれていた事を。
それでね、
病気ってもしかしたら
本人より見守る事しか出来ない
周りの人達の方が
辛いんじゃないかなって・・。
懸命に看病してくれたり、
励ましてくれたり、
それは簡単な事ようで、
とても辛いんじゃないかなって。
病気はとてもとても辛かったよ、
でもそんな事に気づいた時、
少しだけ病気になって
良かったと思った。
生まれてから
そんな優しさを
ずっと感じなく生きてきたから・・。
それに気づいた私は
ちょっとだけ安心できた。
幸せに鈍感な私だけど、
今、あの時と同じようなユリ兄を見ると、
あの当時の感情をまた
再び思い起こす事が出来る」
夜になろうとするひんやりとした風は、
瞬きだけを記憶に留めているような
ユリツキの瞳を少しだけ潤ませる。