白い蝶々

七夕

『おとん今日七夕やよ』
話せなくても声を聞かせたくて話し掛けていました。
いつも通り看護婦さんが2人来ました。
『体拭きましょうね』
私は父の肌着の着替えを頼まれ売店まで行きました。
いつもと何にもかわらない同じこと。
病室に戻ると母が
『いやー』
と叫んで父に馬乗りになり『お父さんーいかんでー』この時状況判断が私にはない方がいいと幼い子供になりたかったです。
母はソファーに座り譫言のように
『お父さん死んじゃった』
ばかり口にしてチアノーゼが出ていました。
その頃妹は自宅に忘れ物をして取りに家路を急いでいました。
大音量で聞く音楽が邪魔して私の着信に一切気付きません。
30分位かけてやっと気付いたのか
『病院戻って。』
私の問いかけに反応ないまま電話は切れ15分位して妹が来ました。
クールな妹が母のおかしい様子に泣いていました。
『おかん。しっかりして。』
それしか言わない妹の優しさが私には痛い位伝わりました。

要領よく淡々とこなす看護婦さんに見とれました。
『葬儀はどこがいいですか?』
そんな感情ゼロの言葉に殺された感情が私をどんどん弱くしました。
紙を渡され決まったら書いてあるところに電話しろと言われました。
普通でいられない時に答えた言葉は覚えていません。

何にも覚えられません。
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