黒王子と銀の姫
「兄上が元気で悪いはずないじゃないですか。ただ、妙な噂を耳にしたものですから」

「噂って?」と聞き返す顔に不安で翳る。
だんだんと弟のペースに引きずり込まれていることに、セナは全く気づかない。

優雅にソファに腰掛けた弟に直立不動で対する兄の姿に、威厳を見つけ出すことは難しい。

(兄王子と弟王子と言うより、まるで王子と下僕だな)

浮かんだ思いを胸の中にしまいこみ、グノーは視線を走らせた。
イリアたちが注意を引き付けているうちに、クリムゾンがユーリを救出する手はずになっている。
任務が完了すれば合図を送ってくるはずなのだが・・・。

イリアの表情に苛立ちは見えないが、とっくに我慢の限界を超えているはずだ。

そのことを裏付けるように、イリアの舌鋒はだんだんと鋭さを増している。





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