黒王子と銀の姫
たしかに下男には見えない。
金髪碧眼の優男は、言葉遣いはぞんざいだが、見た目も立ち居振る舞いも上等で、おまけに剣の達人だ。

銀食器を磨いたり、床掃除をしたりしているのは、圧倒的に人手が足りないのと、単に自分がきれい好きだからで、掃除をしているよりも、美女の手を取っている方が似合っている。

「あんなに男前なのに、女性に見向きもしないのよ。失礼しちゃうわ」

あいまいに頷きながら、そばかすの散った相手の顔を見る。
離宮で働いている年頃の娘たちの多くがクリムゾンに懸想した挙句、次々とふられる話は聞いたことがある。
目の前の娘もそのうちのひとりなのだろうか。

「気を付けた方がいいわよ。見た目はいいけど、得体がしれないんだから」
「得たいがしれない?」
「クリムゾンは刺客だったのよ」
「!」

大声をあげそうになった途端、口をふさがれた。
娘は意味深に笑っている。
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