黒王子と銀の姫
(イリアは気づいているのだろうか)

街の喧騒におされるように、ユーリの足が速くなる。

アルミラ貴族の中に反乱をくわだてている者がいる。
イリアの敵は王室関係者だけではなかったのだ。

「外出されるのでしたら、お供させていただきますが?」

大通りを渡りきったところで、背後から声をかけられた。
プラチナブロンドと灰青色の瞳を持つ美しい娘だった。

「あなたは誰です? どうして私の名前を?」
「私は、シンシア・コーエンと申します」

外見を裏切る強引さで腕をつかまれて、無理やり物陰に押し込められた。
そこで、女は膝を折り、ユーリに対して臣下の礼をとった。

「私はフォルスト家に仕えておりました。リタニアを祖国とする者の中に、ユーリ様のお名前を知らない者は、一人もおりません」

フォレストと言えば、グレアムとアランの家だ。
つまり、アルミラ王室を倒すために、活動している者の一人ということだ。

どこへ行くのかと訊ねられ、答えることができなかった。

国を奪われたリタニア人は、大陸をさまよっている。

敵国に連行された上、罪人同様に苦役を強いられて、屈辱的な日々を送っている者も少なくない。





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