黒王子と銀の姫
ユーリはかぶっていたフードをずらし、王宮の尖塔を仰ぎ見た。

(私、何をしようとしていた?)

城の近くまで行ったところで、イリアと話ができるはずもないけど、それを承知で城に向かっている時点で、祖国に対する裏切り行為だ。

放心したまま佇むユーリの頬に、大きな雨粒がぽつりと落ちた。

「ユーリ様、お戻りください。あの……雨が……」

無意識に広げた手のひらの上に、雨の滴がパラパラと落ちる。

初めて会った時から敵と味方だった。

その関係は、今も、これからも変わらない。

尖塔のシルエットが雨の帳の向こうに霞み、さらに王宮が遠くなる。

ユーリは唇をかみ締めた。

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