黒王子と銀の姫
「それで、あなたは何をしにきたの? この剣で死ねってこと?」

「おい、暴れるな! そんなことあるわけないだろ!」

「あるわけないわけないでしょう? アルミラは敵国で、イリアは敵国の王子で、あなたはイリアの押しかけ従者で……」

「押しかけはよけいだ」

抵抗するユーリをもてあましながら、クリムは不機嫌に囁いた。

「ユーリ、お前まで騙されるな。すべてはあの方の筋書き通りに進んでいる。王の崩御は最終章の幕開けだ」

ベッドカバーの端っこでユーリの涙を拭く大きな手を、ユーリは強引につかまえた。

「最終章って、イリアがこさえたお芝居のこと? あれなら、私はもう用なしだって……」

「だからこそ、お前じゃないとだめなんだ! ユーリ、お前は、あの方にとって、唯一の誤算なんだよ!」

がっしと肩をつかまれて、ぎょっとした。
クリムはどうしてこんなに一生懸命なんだろうと考えた。

もともとは、第二王子に雇われた刺客だったというし、イリアに対してそれほど従順にも見えない。

それなのに、無類のきれい好きで、いつも身なりのきちんとした男が、びしょぬれで、きれいな金髪をぐしゃぐしゃにして、イリアのために必死に何かを訴えている。




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