黒王子と銀の姫
第一離宮にあるキリシュの居室は、王の居室よりも、はるかに大きく立派だった。

酩酊を誘う不思議な香り。

一流の職人が手がけた豪華な調度。

天蓋付のベッドに横たわる美貌の青年。

投げ出された腕。

芸術家めいた長い指。

その指先がかすかに触れる位置に横たわるクリスタル製のグラス。

「穏やかな死顔だ。眠っているようにしか見えない。もっとひどいことになっていると思っていましたが」

金髪碧眼の従者が漏らした感慨に、少年は反応しなかった。
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