黒王子と銀の姫
「グノー!」

救世主のように、何もないはずの空間から現れた青年は、けれども目の前に佇立したまま、いつまでも動こうとしなかった。

色素の薄い目がじっと少年を見下ろしている。

城は落ちる寸前で、一刻を争う事態だというのに、
「やっかいなことを……」
唇から漏れた言葉は、あまりに非情なものだった。

「こんなところで死なれては困る。全てがうまくいくはずだったのに、ユーリ、あなたのおかげで台無しだ」

何を言われたのか、すぐには理解できなかった。

言葉の意味を問いただす暇もなく、男の腕がすっと伸びてきて、動かなくなった少年の身体を荷物のように抱えあげた。












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