黒王子と銀の姫
「イリアを侮辱しないでください! 私は、戦場で兵士に殺されそうになっていたところを、イリアに助けられたのです。それからずっと匿ってもらっていただけで、あなたが思うようなことは何もありません!」

「あらあら、すごい剣幕ね」

大げさに驚いてみせた後、赤い唇がコケティッシュに微笑んだ。

「それにしても、ずいぶんみすぼらしい王女様ですこと。でも、殿方を手玉に取るのはお得意のようね。よろしければ教えて下さらない?どうやってグノー、いえ、セナ・アルフォンソに取り入ったの?」

「取り入ってなんて、いません」

困惑と屈辱を滲ませてユーリの白い頬に朱がのぼる。
それを見たローズは、ことさら胸を張り、挑発するように顎を反らせた。

「とにかく私はあなたが大嫌いなの。セナがあなたを妻にするなんて言い出さなければ、飢えた男たちがつながれている牢に放り込んでやることだってできたのに」

ローズが芝居がかった仕草で扇を一振りすると、それまで微動だにしなかった甲冑の兵士が動き出した。

「やめて、放して、イリアっ!」

思い切り伸ばした手が空しく空を切る。
有無を言わさず地下室に押し戻されたユーリの目の前で、扉は無情にも閉ざされてしまった。












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