黒王子と銀の姫
イリアが連れて行かれた場所は、牢屋でもなければ、刑場でもなかった。

「ここはどこだ」
「私の部屋ですわ」

王族の居室にも勝るとも劣らぬ豪華な部屋は、確かに目の前の美女にふさわしいものだった。

薔薇の壁紙に囲まれた、薔薇の香りのする部屋で、女は優雅に両手を広げてみせた。

「セナが・・不本意ながら私の兄上が革命政府にかかりっきりになっている間に、あの生意気な王女を殺してやろうと思ったけど、気が変わったわ。
あなたが私に与えた屈辱を思えば、あなたも、あの子も殺すだけでは飽き足らない。
ねえ、あの子が交わした約束のことはご存知?
ユーリはあなたの命と引き換えに、グノーのものになると言ったそうよ。
あなたはどうかしら?
あの子の命を守るために、私に何をしてくださる?」

美しい巻き毛を揺らし、ローズはにっこりと微笑んだ。

罪を罪と感じることのない無邪気な笑顔。

何も知らない人間が見れば、天使の微笑と映るかも知れない。




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