黒王子と銀の姫
「一国の王子に、他国の庶民の暮らしぶりが、これほど詳細に記述できるものでしょうか」

「知っていれば書ける。知らなければ書けない。加えて言えば……」

イリアは積み上げられた本の中から一冊の本を取り上げて、パラパラとページを繰り始めた。

「ほら、ここに書いてある。民衆を知らぬ王家が長続きしたためしはない」

自分のことを言われたのだ。
かっとしたユーリは、突きつけられた本を手で払いのけた。

「名前は?この少年の名前が書いてありませんが!?」

「お前の名前はユーリだろ?」

さらりと名を告げられ、衝撃のあまり、ユーリは言葉を失った。

聞き間違いではない証拠に、イリアが無造作に広げた羊皮紙には、リタニアの王家の家系図が記されていた。

「女が男に化けるんだ。偽名など使わなくても誰もわからない」

この人は何を言っているのだろう?

「誰もわからない? そんなはずないでしょう? 敵国の王子であるあなたが気づいているというのに、こんなお芝居が一体何になるというのです!?」









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