黒王子と銀の姫
ためらうことなく手の甲に押し当てられた唇。

強く吸われて、しびれるような痛みが走った。

「ちょ、ちょっと!」

身をよじったところで、バランスを失ってよろめいた。

心臓がどくんと大きく鼓動を打つ。

足を踏ん張ろうとしたけど、だめだった。

身体中の力が抜け落ちていく。

倒れる直前に、身体がふわりと持ち上がり、抱き上げられたのだと気がついた。

侍女たちの悲鳴。

駆け寄ってくる足音。

遠のく意識。
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