黒王子と銀の姫
「ミカエルが不慮の死を遂げた今、連中も保身のために知恵を巡らせています。兄上には正妃がいらっしゃるので、第四王子の私に白羽の矢が立ったのでしょう」

「迷惑そうだな」

「ええ、迷惑です」


即答して振り返ると、キリシュはどこか楽しげに含み笑った。

端正な横顔から目を逸らしたイリアは、ベッドの脇のサイドテーブルに手を伸ばすと、ワインデカンタの中身をグラスに注ぎ、兄の手に握らせた。

「ありがとう」

手渡されたグラスを優雅にひと揺らしして、中の液体を飲み干す様を、いつものように暗い瞳で見守った。

白い喉が上下して、イリアが部屋に持ち込んだワインを、何のためらいもなく嚥下する。

それを無言で見つめながら、頭の隅でぼんやりと考える。

どうしてこの男は、自分に対してだけ、こんなにも無防備なのだろう。




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