黒王子と銀の姫
「言っておくが、ミカエルのことは気の早い家来たちが勝手にやったことだ。私は何も命じていないよ」

「そうでしょうね。反乱の汚名のもとに一族もろとも抹殺する機会を失って、お気の毒です」

冷ややかに告げたイリアは、相手に背を向けたまま、立ち上がる。

まとった薄布を引きずるようにして窓辺に立つと、やりきれない思いで吐息をついた。

背後でグラスを置く音がする。

かすかな衣擦れとともに、近づいてくる気配。

背後から抱きしめられ、身体がびくりと震えたが、表情までは変わらない。

男の手に引っ張られ、まとっていた薄布が、力なく足元に滑り落ちてゆく。



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