籠の鳥 † Love is a CAGE †
「……おや。鳥が落ちているよ。」



おだやかな声がして、誰かの翳が私を覆った。

ああ涼しい。

生き返る心地がするわ。

大きなてのひらが私をそっとすくい、かすんだ眼に見えない空が少しだけ近くなる。



「おやめなさいよ。死んだ鳥なんか拾ってどうするの。」



うつくしい女の声には咎める響きがあからさま。

そんな声をものともせず、長い指が私の羽根を静かに撫でる。



「死んではいない。羽根が折れたんだ。可哀相に、烏か鳶にでも襲われたんだろう。」


「どうするの。」


「葉山のところへ連れてゆこう。手当てをすれば元気になる。」


「葉山さんがお勉強なさっているのは、人間相手の医学でしょう。」


「何、折れた骨の手当ては、万物共通だろうよ。」


「……お好きに。わたくしはもう帰りますわ。」



不機嫌に、女の声が遠ざかる。

涼しげな裾さばきの音が、路上の喧騒にまぎれてゆく。


ああ、ほっとした。

あの女は、しっぽの長い悪魔みたい。

出し入れ自在の爪を隠し、お日様の光を浴びて眼を糸のように細くする。

足音も立てずに歩いて、私たちに襲いかかるあの悪魔。


大嫌いだわ。


怖い。

私は今、飛んで逃げることも出来やしないのに。



「篤子(あつこ)さん。」



途方に暮れた声音で彼の人は女を呼び、苦笑にまぎらして頭を掻く。



「やれやれ。また怒らせてしまった。俺はどうも、駄目だなぁ。」



いいえ、いいえ。

ありがとう。

私の嫌いな悪魔に似た、あの女を追い払ってくれた。



「どれ。もうしばらく辛抱おし。すぐに手当てをしてやろう。」



私を包む掌は、ぎらつく太陽を遮って、水のように涼やかだった。
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