幾千の夜を越え
「右近は知っているはずだ…。
この村で何が起こったのかを」

そうだ俺は見たはずだ思い出せ。

村へ降りて目にした光景は何だ?

当時の光景を思い描く様に辺りを見回していく。

原因不明の高熱に浮かされ
身体中に謎の湿疹を発疹し
皮膚はどす黒く変色し壊死した。

目を背けたくなる村人の姿が目に飛び込んでくる。

「感染者が…」

今、目の前で苦しんでいる様で、口を突いて出たが後が続かない。

「感染者?…もっとよく見てみろ何に伝染ったんだよ」

これ以上何を見ろっていうんだ。
ムッとする俺の前に

『わしら村人の目を避ける様に、誰とも接触はせなんだ…』

突如現れた老婆が言った。

誰とも接触していない…。

つまり接触感染は有り得ない。

感染者の年齢層が年寄や乳幼児が中心なことやこの時代に医療行為や輸血に因る血液又は母子感染も考えられない。

ベクターの線も捨てがたいが…。
生活用水からの経口感染が有力…だが一つしかない井戸を村人は使っているはずだ。

井戸を睨み付ける俺は男の言葉を繰返していた。

「感染者?…もっとよく見ろ…。もっとよく見てみろよ…」

ぶつぶつと口の中で繰り返す俺に男は黙ったままだ。

自分の言葉を繰返し呟く俺を男はどんな気持ちで見ているのか。

普通は馬鹿にされてる様で気分は良くないはずだ。

だが今の俺はそんな考えにも気が回らない程余裕がなかった。

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