幾千の夜を越え
睨み付ける右近の威圧感に
尻込み黙する者も在れば。

「右近様は村人全員の命と尊一人の命を天秤されるおつもりか?」

大衆の意見を代弁して居るつもりなのか真っ向うから歯向かう者

「尊様には誠申し訳ないことだが我々村人をお救いくだされ何卒…何卒…お助けくだされ」

跪き両手を合わせ懇願する者。

長らく対峙する間に
痺れを切らしたのか

何処からともなく投げ付けられた石が右近の腕に直撃して落ちる。

右近が避けることが出来た石を
甘んじて受け止めたのは、

「すまない…。
即座に返答は出来ぬ。
今日の処は引き下がってくれ」

村人を帰す機会を作る為だった。

鳴神の落とし子として信じられている右近に石を投げ付けるなどと罰当たりな事を目前として村人も漸く冷静になってきたのか徐々に勢いをなくしていき一人又一人と後にしていった。

「右近様…信じております」

去り際に一人が放った言葉と
その強い瞳が右近に突き刺さる。

村人と入れ違いに左近が帰する。

「何か遭ったのか?」

右近の指先を伝いぽとりぽとりと落ちる鮮血とその足下にある石を見比べて左近が近付く。

「否、村に届けてきたのか?」

隠す様に袖口に仕舞い込んだ腕を組むことで誤魔化す右近の様子を左近は気付きながらも触れず。

「ああ…言われた通り台車山積みの米を病人の家を中心に配った」

返答したのだった。

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