幾千の夜を越え
金縛りにでも合った様に体が
動かなかった。

流れ落ちる汗を拭うことさえ
出来なかった。

自分の体が自分の体ではない
何者かに支配された感覚だった。

尊は自分の立場を理解していた
その上で自ら手を差し伸べ様と…
とっくに覚悟を決めているのだ。

「尊が…輿入れをしたところで、事態は変動致しません故にお気に為さらずとも構いません」

「その様なこと…余にその様な力がないことなど承知しておる!
それでも氏子の心気は救われる」

一歩も引かず真っ正面に対立する尊を余所に泰然と構える素振りを見せ続けた。

「事態が変動致しませんことには群衆の心気が晴れることは御座いませんので尊が輿入れる必要などありません」

もう解っていた。

右近は痛いぐらい苦しい胸の内をただ悟られまいとひた隠し続け

「宜しいですね!」

確固たる態度を取り続けるしか、…出来なかったのだ。

随分と冷たい男だと思われていることだろう。

鬼か悪魔とでも思われているかもしれない。

それでも構わなかった大切なのは尊が生きていることだけだった。

今はとにかく沈静化するのを
待つしかないのだ。

その為に栄養価の高い供物を配り免疫力を高めさせた。

時が過ぎるのが殊更遅く感じる。

一分一秒でも速く過ぎることを
切に祈る感覚は未だに残る。


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