幾千の夜を越え
俺はこの先を…
結末を知っている。

村に配った食物は確かに効果的でそれ以降は訃報を耳にする事なくこのまま過ぎて行く筈だった。

だが実際には一度植え付けられた恐怖心は簡単には取り除く事など出来る筈も無く極度のストレスに晒され続け張り詰めた緊張の糸が切れるのも時間の問題だった。

連日の如く届く尊宛の呪符自体は単なる脅しで意味を為さないが、女官達に揺さぶりを掛けるには、充分の品物だろう。

「どういう事だ!答えろ右近!」

左近が憤りに任せ砂壁に体を叩き付け勢いそのままに衿を掴み顔を寄せる。

「村人が尊に疑心を抱き始めた。氏子の無病息災の祈祷を行うのが氏神のお役目である筈が此度の件氏神のご乱心ではないかと」

「尊の身清めの儀は左近も熟知の事であろうに…」

左近の手を払い退けて
やり過ごそうとするが
行く手を阻み立ち塞がる。

「尊に以前より呪いが掛けられているのは事実か?」

呪符の件は伏せておいた筈だが、人の口に戸は立てられぬか。

「危惧せずとも手出しはさせぬ。左近が憂色を漂わせば村人も懸念するであろう」

今現在、袖下に忍ばせた呪符は
日毎に強い念に変わりつつある。

呪い還しを恐れなくなったか、
解かれぬと踏んでのことか、
それだけ力を付けた或いは蓄えたということに他ならない。

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