幾千の夜を越え
左近も何か思うところがあるのか黙って右近の後を付いてきた。

右近は左近に目を向けることなく静かに告げる。

「よいか左近…
尊とは純真無垢なお方なのだ。
この世の全ての不浄なモノと離し何よりもお清いままで在らせられ則ち神の身代…その身を食せば、万物の理を侵すとされている」

実際にその様な信じられない愚行が可能だというのか?

恐らくは左近も同様の考えの筈。

「尊を亡き者にしようと企む輩は神の力に因りて鎮めし御霊を甦らせる事が目的であろう」

「死者を生き返らせるということではあるまいな?」

半信半疑の左近の声に
軽く首を振り答える。

「唯の死者の御霊であれば良いが悪しき御霊であれば今生は地獄と変わる…」

常識的な考えをするのなら
常識的な判断力のある者が大愚な行為を氏神として崇められる尊を犠牲にしてまで為し遂げようとは思う筈がない。

粗も尊を食すとはどういう意味で誰が食すのか?

復活を願う者なのか?
復活をする者なのか?

尊の存在理由に此れ程深い意図が隠されていたとは…。

左近が右近の肩を掴み
強引に振り向かせる。

対峙したその額には
粒の汗が吹き出して
今にも流れ落ちそうだった。

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