幾千の夜を越え
到底信じられないという風に
困惑の色を隠そうともせず、

「尊が居ないだけで死者が
生き返るというのか?」

絞り出した声で尋ねる。

「尊にその様なお力はない。
尊とは氏子を統括する象徴…。
氏子の信仰心を増長させる為の役に他ならない」

「ちょっと待て!それでは矛盾をしているではないか!」

氏子の信仰心を煽る存在価値に
御霊を甦らせる知られざる俗説。

どちらが正しいのか。

尊の前世では或いは後者であったのか今は知るものも無く。

否、
右近は覚えているのではないか?

前世の記憶を持っているのでは?

「尊ではないのだ…」

右近には珍しく言い澱む。

「何が問題なのだ!全て話さねば協力出来ん!」

右近を突っぱねる左近を一瞥し

「何を悠長な。協力?此れは妙な事を申すではないか左近よ。
尊が居なく為られて左近の役とも在ろう者が尊の身を案じず探す事もせずと云うのか?」

左近の口を封じ込める。

張り裂けそうな鼓動のうねりを
左近に悟られない様に右近が
先を急ぎ歩き出した。

右近と左近…
雷神と風神が対なのには当然だが理由がある。

右近…或いは左近…
一方が暴走をする様な事が有ればもう一方はそれと相打つ。

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