幾千の夜を越え
産まれてから村人の無病息災だけを祈り捧げてきた彼女の信念…。

考えなくても…思い当たる。

村人の為にその身を投じること。

ただ…祈り続けるだけではなく、村人の為に間接的でも直接何かを出来ることが彼女には大事なことだった筈だ。

村人は山神への輿入れが人柱の意だと知っていてそれを本気で信仰しすがっている限り。

自然被害ではなく人為的被害で、山神への輿入れが如何に無意味で馬鹿げたことだったとしても。

それを知っているのは右近だけで何が目的なのかは不明なままだが尊の存在を消し去りたい何者かが居ることは事実…。

尊の存在が村人を危険に晒したと知れば村人と尊の間に溝を作り…尊を傷付け尊の存在そのものを、否定することになる。

尊の自尊心を傷付けずに綺麗な、幕退きをさせてやりたかった。

「真実を知るってことがいつでも正しいって訳ではないからな…」

奴がポツリと呟く。

右近は尊の意志を尊重して受け入れたっていうのか?

本当にそれが正しかったのか?

今の俺ならどうするだろうか?

「あの時代はな志しの為に死ねる時代だった…そこに男も女ない。平和な時代に産まれ育った俺達に理解出来なくて当然なんだよ…」

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