幾千の夜を越え
女を置き去りにして、
走り出す。

葵が消えた道場の裏。

高い柵で囲まれた学校の敷地の端
草木が生い茂り昼間でも
仄かに陽が挿し込む程度で薄暗い

「止めてください困ります」

か細く微かに震える葵の声に、

「良いじゃん別に。
付き合ってる奴居ないんだよね?
だったら俺と試しにさ…」

被せる様に迫るヤロー。

何とか間に合ったか…。

息を吐く間もなく、
葵の手を掴んでるヤローの手首を
捻り上げる。

「この学校のルール…
知ってますか?」

シャツのラインで3年だと気付く

「何だお前…1年のガキが
邪魔すんじゃねぇ」

捻り上げられた腕を
力ずくで振り解いた。

「知らないなら生徒手帳に
付け加えた方が良いですよ」

葵を背に隠す様にして間に
割り込み。

「神野葵に告るためには、
右川慎輔若しくは神野茜に
承諾を得ること」

葵の手が俺のシャツを握り締める

チャラ男より背がデカい分
見下ろせば迫力が増す。

「お前が右川慎輔かよ?
成程な流石ハリウッド仕込の外見」

「そりゃどうも…」

「褒めてねぇよ」

解ってんだよ。

鼻にかけた話し方で、
誰が褒められてるって?
勘違いなんかすっか。

「俺は承諾した憶えないんすけど
頭悪ぃから忘れたんすかね?」

何が頭悪ぃだよ白々しい。
全国模試の上位者だっての。

「茜ちゃんには報告済み。
忙しいみたいでまだメモ見てないかもな?」

俺の睨みに後擦去りする。

「へぇ〜メモ」

感情も込めずに
納得した風に首を動かす。

「嗚呼、茜ちゃんの靴に入れてきたから…」

今日は確か弓道部の日。
校舎内を移動出来るから
帰り時まで下駄箱には行かねぇ…

「そうゆうの承諾を得たとは、
言わねぇんだよ。
まぁ、さっきの返事…
先輩とは付き合いたくねぇってさ
葵のタイプは王子様らしいんで、
荷が重過ぎじゃないすか」

悔しそうに、
屈辱に顔を歪めて走り去って行く

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