幾千の夜を越え
頭を両手で抱え込み崩れ落ちる。

「右近さえ知らされてない事実を慎輔に教えてやるよ…」

デカイ図体を小さく畳み込む様に踞ったままの俺の頭上から呟く。

「右近と左近が守らされてきたのは異空間の間に出来た抜け穴だ」

言うが早いか奴が小さな石に手を翳すと石はうっすらと光出した。

やがて大きく天に伸びた光の中に1人の老人が現れた。

「右近に左近よお前達二人のうち見事生き延びた方にこの地を授けよう…」

老人は自らの耳を切り落とし、
そこから小さな赤子が生誕した。

そこで光が薄れていくと同時に、三人の姿も掻き消された。

「何だよ今の…」

今は何も映さない石に俺はにじり寄り奴を見上げる。

「その石の見た記憶だな…。
右近に左近の始まりの部分だ」

俺達があの老人の耳から産まれたっていうのか?

信じられない光景を前に言葉を失った俺に構わず。

「もう少し大きな仔を選ぶかな」

奴は無造作に片手を突き出し、
拳程の石を引き寄せた。

手中に収まる手前で宙に浮いた
その石に向かい…

「お前も楽しませてくれよ」

艶笑を浮かべる。

「…まさか左近が残るとは」

老人は長く蓄えた髭を擦りながら1人の少年を見ている。

< 120 / 158 >

この作品をシェア

pagetop