幾千の夜を越え
『うぉ〜』なのか『ぐぉ〜』なのか耳を塞ぎたくなる気味悪い声と

『しゅば』『バシャッ』っという小気味良い音に振り返る。

「右近!」

背中合わせに長刀を振り翳す左近が右近に叫んだ。

「左近!」

身軽に舞い踊る様に素手を動かす右近が左近の声に反応し破れかけの袖を切り裂く。

「待ってろ!」

その布切れと化した袖を指に巻き付け印を結ぶ。

「早くしろ!」

その間にも右近が指し示した裂目からは次々と亡者が湧き出る。

「解ってる!」

湧き出した亡者は2人から逃げる様に四方に飛び散るが、

左近の長刀に切り捨てられ消え、或いは右近の操る水柱に追われて取り込まれていく。

印を結び終えた布切れを

「左近!」

左近の差し出した長刀に巻き付け力を移した。

「もう少しだもう少しで再び裂目は閉じるぞそれまで持ち堪えろ」

右近の声に左近は安堵の息を漏らすのを捉えた。

「左近!」

右近の仕留め損ねた亡者が左近に狙いを定め襲い掛かる。

一瞬の出来事だった。

左近の心臓目掛け飛び付いた亡者はそのまま左近を喰い千切る。

右近が投げ付けた水刀が命中し、亡者は消え失せると同時に左近が崩れ落ちた。

「左近!!」

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