幾千の夜を越え
その血溜まりに気泡が産まれ…、やがて左近が這い出した。

「左近は右近から産み出された」

愕然とする俺に奴は

「力を持たない左近と右近の力の暴走を恐れた父神は右近の最期の願いを聞き入れ一つにした」

淡々と説明していく

「ところが人間とは交わりのない右近は孤独に耐え兼ね産み出す」

俺の反応を見ることなく

「父神の力を受け継ぐ右神と…、右神の力を分け与えられた左神」

昔話を読み進める。

「此が左近の力の所以だ」

人間と交わりのなかった右神。

尊とはいつ出逢ったんだ?

「左近の力より尊との馴れ初めを先にした方が良かったか?」

軽く息を吐きその石を投げ寄越し

「その仔がお前の孤独を埋める、助けをしてくれたんだ感謝しな」

付言した。

改めてよくよく見てみれば確かにさっきはよく解らなかった痕は、右近の印の様にみえる。

「お前が左近を産んだ石なのか」

そう思うと不思議と唯の石が、
急に有り難みを持ち始め

「ありがとうな…」

知らず知らずにそれをそっと胸に押し当てていた。

その様子を奴が微笑して見ていることに気付き照れ隠しに

「何だよ…あんたが感謝しろって言ったんだからな」

ぶっきらぼうに呟いた。


< 127 / 158 >

この作品をシェア

pagetop