幾千の夜を越え
シャツを掴んだままの葵の手を、
引き寄せ片手で肩を抱き、
髪に顔を埋めて、
息を吐く。

「何、やってんのお前?」

「だって話があるって…。
慎ちゃんだって女の先輩に付いてってたもん」

表情なんて見なくても解る。
叱られた子供の
摩り替えた言い訳

はぁ〜、見られてた訳ね?

「あの先輩は彼氏持ち…。
葵のは口説かれでしょ?」

頭を動かす葵に、
顔を離して見下ろすと、
チビな体で俺を見上げる。

「告白じゃないの?
好きって言われなかった?
付き合ったりしないの?」

自分の危機管理を注意されてんの解ってねぇし…。

深い溜め息の後、

「俺のことは葵には関係ねぇ」

一言した。

みるみる溜ってく涙に、
今日は誤魔化されねぇ。

「だって…
慎ちゃんに彼女出来れば
仲良く出来ないもん…。
彼女作って欲しくないんだもん」

溢れ落ちそうな涙を、
指で擦り付けてる。

「お前なぁ、いつか犯されるぞ?
簡単に付いてくんじゃねぇ」

今日は厳しく言ってやる。
いつも最後は甘やかして
終わっちまうから、
いつまで立っても葵には
危機感が出ねぇんだ。

「そんなことないよ。
簡単に付いてかないもん。
ちゃんと考えてるよ?」

止まる様子のねぇ涙を
擦り付け続けるから、
瞳も頬も赤くなってやがる。

「考えてんなら…、
何でお前は今此処に居んだよ?」

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