幾千の夜を越え
胸の奥から熱い塊が這い上がる。

乱れた呼吸でボロボロの体で、
その足に先を急かす。

見たくない!

そう目を逸らしたくても
焼き付いた記憶は容赦なく
過去を突き付けてくる。

右近と同化した俺の息も上がって過呼吸を起こしそうだった。

バクバクと胸を打ち付ける鼓動にその痛みが心音からなのか…。

「太蔵丸!」

横たわる太蔵丸に駆け寄りその体を抱き起こす。

「しっかりするのだ太蔵丸!
何が遭ったというのだ!」

這い上がる吐き気を
何度も飲み込み。

太蔵丸の顔に額に頭に…
無数の傷口から噴き出す多量の血その場に転がる血痕の残る拳大の石の後から。

「太蔵丸!しっかりしろ!
尊は?尊はどうされた?」

返るはずのない応えを促す。

「太蔵丸!答えるのだ!太蔵丸」

少年にしてはか細い体つきに…、未だ幼さを残す顔立ちの太蔵丸を力任せに掻き抱き掌から溢れ出す水を口元に添え含ませるその血で汚れた顔も清められる。

尊の影を匂わす太蔵丸の蒼白い顔が表れた。

微かに動いた指先は社の奥を指し示していた。

「尊…様を…右…近…様」

それが太蔵丸の遺言だった。

煙りに巻かれ炎が炎上する社の奥に彼女は取り残されている。

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