幾千の夜を越え
奴の見解に言葉を無くすのは、
そんなに立派な心掛けではなく
唯の大喰らいだっただけだ。

「…」

奴は俺からの返答を待つが
沈黙に耐え兼ね、

「俺だって葵さえ居れば他の女を抱くことなんかしなかったさ」

逆ギレよろしくまくし立てた。

「解ってるなら何故そうしない」

予想外の返しに思わず口籠る。

「やっ…だけど…葵にはなんか…手を出せないってか…」

「慎輔が右近を思い出すきっかけは何だったか解るか?」

一寸も逸らさず直視し続ける奴の眼から俺も目が離せなくなる。

「何って…確か…左山が転校して来たからじゃなかったか…?」

そうだ確か初対面の俺にいきなり右近って近付いてきた左山が居て…左山が茜を尊と勘違いしてた。

否、おじさんが俺の役に立つって渡された古書に前世の記録が記されてて…。

ん?確かあの時…。
茜が最初に呼んだんだ!

葵と寝たのか聞いてきて否定した途端に罵倒始めた挙げ句右近じゃねぇ…って。

茜は…
太蔵丸は尊と右近の間に本当は、何が遇ったのかを知ってのか?

おじさんも右近の知るところは、住職の与り知ることだって…。

住職は、
尊を山神の社に送り届けたまでを記し裂目から這い出した亡者の件からは記してない。

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