幾千の夜を越え
神野家のドアを潜り抜け。

「おじさん!」

「やあいらっしゃい慎輔君」

「葵に…会いに来た!」

玄関に繋がる階段を上がる。

「よぉ茜!久しぶり」

複雑な表情を携えた茜に
片手を上げる。

「慎輔…」

「ん?葵は?部屋?」

戸惑いながらも応える茜に
尋ねる。

頷いた茜を残し更に上を目指す。

トントン…
葵の部屋をノックする音に僅かにドアの隙間を作る。

「葵、俺…入れて?」

「慎ちゃん…」

「うん…ごめん」

ゆっくり開かれるドアが
もどかしくて

「葵!」

無理矢理ドアごと引き寄せ
雪崩れ込む。

すっぽりと収まる葵は
前より痩せていた。

「離れてごめん」

葵の両頬を包み込み
顔を向かい合わせた。

「1人にしてごめん…」

みるみる溜まっていく
滴が溢れ出す。

「約束…破ってごめん」

ふるふると首を振る葵の手が

「寂しい思いさせてごめん」

頬の上で重なった。

「慎…ちゃん」

「葵…好きだ」

ふっくらとする葵の唇を
吸い上げる。

重ねたまま僅かな隙間から

「何千の昔から…葵だけを見てた…葵だけを求めてきた」

葵に告げる。

「葵が好きだ!」

何度転生しようと
右近では告げられなかった言葉をこれからは葵に伝え続ける。

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