幾千の夜を越え
左山には周りが見えないのか、
俺が逸らしても構わずに更に
力任せに近付く。

「右近お前…尊が…あっ…あっ」

「あっ?」

震える体でどもる左山が

「……ふっ…」

「あふ?」

「ちゃうわ!」

言葉を選んでいるのか…
単に言えないのか。

「…好っき…」

その瞬間

「きゃ〜」なんて生易しい
可愛いものじゃなく

「ぎゃ〜」とも「がぁ〜」とも
つかない喚声が上がる。

野次馬の悲鳴に両耳を指で塞ぐ
仕種をしたところで左山は…。

怒りの為か羞恥の為か赤い顔で
相変わらず口の閉開を繰り返す。

「…浮気…」

ボソッと呟いたと思えば

「しとるちゅうんちゃうやろな」

早口言葉かと間違える速さで
まくし立てた。

「よく舌噛まなかったな」

感心する。

「浮気ですって」
「舌って言ったわよ」

ぼそぼそとでも確実に聞こえる声で野次馬が盛り上がっていく。

この状況に左山の状態だ
「好き」だの「浮気」だの…
完全に妄想の餌食だ。

「浮気って…本当に付き合ってるっていえるのか?」

「少なくとも俺は全霊で告った!付き合うっとるんちゃうんか?」

怒りに血走った眼で睨み付ける。

「俺が悪かった…付き合ってる。だから落ち着け…」

左山に睨まれても痛くもないが…

完全に血が昇ってる左山の肩を
両手でポンポンと叩いた。

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