幾千の夜を越え
「ん…」

葵の反応も気にせず
葵の手ごと引き抜いた。

デロデ〜ロンと掴んだ手から溢れ落ちたそれを見る。

「ゴム?」

想定外の物の登場に
思考回路は停止する。

「えっと…男の人に…渡せって」

「あぁ…えっと…Cだったか」

まさかのCセックスしたいか?

「うん…C…する?」

此処にも世代遅れの死語か…。

「ふっ」鼻で笑う俺の肩を

「何で笑うの?」

葵が押し反す。

「葵」

その手に指を絡める。

「もう待てねぇからな?」

ぎゅっと固く閉じた瞼に
軽く触れる。

それはゆっくりと下に下りて。

顔中にキスの嵐を降らした。

唇に触れるか触れないか
軽い口付けを繰り返す。

『慎右衛門…
此れが最期なのであろう?』

頭の中で尊の声が響く。
震える声で恐怖をひた隠し強がる胸を締め付ける声に。

ばっと目を見開き
葵の顔を食い入る様に見つめた。

『もう良いのじゃ…
慎右衛門は誠ようやってくれた』

その胸を揺さぶり狂おしいまでに恋焦がれた尊の顔がリンクする。

『もう余の為に苦しむでない…。慎右衛門は慎右衛門の道を行け』

あぁ…、
これはあの神殿での会話なんだ。

何もない洞窟内に届く僅かな光り天然の横穴がまるで寝床の様で…一晩を過さねばならない尊を…
置いては行けず。

気丈に振る舞う尊に、
決別することが出来ず…
一言も発さず居ることを決めた。

熱い鉛を飲み込んだ如く
言葉を出さず居ることが苦しい。

『余は慎右衛門が居て幸甚じゃ。…文献では余の想念を恋慕というらしい…恋慕とは…滑稽な…』

伝えたかった。
内なる想いの丈を。

伝えてはいけないことを
互いに理解しているのに。

隠しきれない畏怖の念を
受け止めてあげたかった。

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