幾千の夜を越え
次々に溢れ落ちる涙を
拭うこともせずに
見つめ続けたまま

「なぁ、葵…。
俺はもうお前の幼馴染みじゃねぇいつも近くに居てやれる訳じゃねぇんだよ」

結局、
自力で気付かねぇ葵に、
諭すように話し掛ける。

「お前が自分で責任持たなけりゃ偶々助かっても次はねぇんだぞ?自分の身は自分で守んだ?」

茜のようになれとは言わねぇ。
危機感だけでも持って欲しい。

腹を空かせた狼の群れん中で、
トロくせぇ天然兎が仲間から、
はぐれねぇように…。

でなけりゃ…
今まで大事に見守り続けた意味がねぇんだよ。

傷付けねぇように…。

大切にこの腕に包み込んで…。

「慎ちゃん…ヤだよ。
幼馴染み止めるなんて言わないでずっと一緒に居てよ」

俺の胸に顔を埋め、
泣きじゃくる葵は、
大人になりたがらねぇ子供で、

無邪気に俺の躰を揺さぶる。

前までの俺なら、
その小さな体を抱き締めてる。

前までの俺なら、
その細い背中を擦ってやってる。

今の俺では、
抱き締められない。

今の俺では、
触れることが出来ない。

「慎ちゃんの意地悪。
全然家にも来ないで…
学校でも会えないよ」

なぁ葵…
お前は気付いてんのか?

ムリだろうな…。

まぁ気長に待つさ。

お前が気付く時まで。

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