幾千の夜を越え
放課後の美術室は、
香水と化粧の臭いが混じり合い、

「やべぇ、吐きそう…」

俺を呼び寄せた張本人の
担任の先公に呟く。

「そうか?」

その呟きを気にも止めず、

「今日はお待ちかねの右川慎輔を連れて来てやったぞ」

俺をプライドん中に放り込む。

その途端に耳を塞ぎたくなる、
黄色い声に囲まれた。

「モデル引き受けてくれたの?」

モデル?

「文化祭までだけど大丈夫?」

文化祭まで?

「毎日付き合ってくれるよね?」

毎日?

次々に飛び出して来やがる
聞き捨てならねぇ単語に、
雌ライオン共越しに先公を睨む。

「言ってなかったか?
人物画のモデルだとよ。
光栄だろ右川?」

はあ?
ハメやがった…。

俺に用事があるという女生徒等に頼み込まれて、

放課後の美術室に呼ばれたことは解ってんだが…。

肝心な用事を聞いてなかった。

そういや微妙に濁してやがった。

コイツはクラスの担任ってだけで
美術部の顧問でも、
美術専攻でもねぇ。

「悪ぃがモデルを引き受ける気はねぇから…

「裸体画なんですが本当に大丈夫でしょうか?」

裸体画?

「聞けって俺の話しを…

「裸体画は芸術だぞ」

先公が勧めてんじゃねぇ。

「だから俺は、んな話し…

「そうですよね?
右川君なら最高のモデルです」

俺を無視して話を進めんじゃねぇ

「待てって俺はやんねぇぞ」

俺の力説に、
一堂静まり注目する。

「そんな…今更困ります。
もう申請してしまいましたし、
モデルも断ってます」

今にも泣き出しそうな彼女に、

「悪かったな…。
部長のお前は最後なだけに
懸けてたのにな…。
俺の力不足ですまん。
人物は諦めて林檎でも描くか?
それなら俺も協力出来るし…」

林檎って…。
極端過ぎんだろ?

追い討ち掛けてどうすんだよ…。

< 22 / 158 >

この作品をシェア

pagetop