幾千の夜を越え
愛しいって気持ちが暴走して、
いきなり押し倒すなんて
無粋な真似は絶対しねぇが…。

鼻孔を擽る、
シャボンの香りに…

葵の腰に
当たっちまいそうな
勢いを忍留める。

俺の女になった…。
漸く手に入れた…。

唯それだけで、
この躰は…
馬鹿正直に反応しちまうんだ。

「腹…減っちまった…」

再度口を吐いてでる感想に…。

さっきは都合良く
鳴った腹の虫だったが
…二度目はなかった。

「あれ?慎ちゃん震えてるの?」

無邪気に尋ねる葵に、
ゆっくりと頷き、

「すっげぇ我慢してんの…」

吐息を漏らす。

「どうしよ…家帰れば直ぐ…

「なぁ…葵。
飯しっかり食えよ?
茜が心配してんぞ?」

葵の言葉を遮り、
一方の手で
下膊を掴みかざす。

元々細い腕は、
痩せ衰えていた。

「俺も葵に元気ねぇのは、
すっげぇ困っからさ…。
しっかり食って肉付けろよ?
俺の両腕に収まってる間なら、
いくら肥っても構わねぇから」

例えそれ以上になったとしても…俺は一向に構わねぇが、

それは葵の為に良くねぇからな。

「じゃあ…、慎ちゃん毎日帰って来てくれる?」

不安気な葵を、
きつく抱き締め

「そうだな…葵の飯は絶品だしなしっかり食うって約束すんなら、又通うか…な…」

語尾までろくに聞きもせずに、

「約束する。
心配掛けたりしないから…。
だから…お願い…もう、私のこと避けないで…」

最後は涙声で…
切実に訴えかける。

息を吐ききる長い溜め息…。

「葵はズリィんだよ…。
いっつも…そうやって…困らす。俺も約束したろ?
もう一度だけ言ってやるよ…。
二度と、離れない。
葵を離してやらない。
必ずお前を守ってやる。
だから…お前は安心して、
俺の…此処に居ろよ?」

泣くななんて、
無理なことは言えない。
泣くなら、
俺の胸の中にしろよ?

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