幾千の夜を越え
不意に掛けられた声に

「あっ?何でもねぇ…」

慌て切り離した。

「着いたよ?」

葵の顔に軽く疑問符が浮かぶが、気付いてない振りを決め込む。

「こんばんは…」

相変わらずガランとしてる店内を覗き込み

おじさんに声を掛けた。

「…ああっ…いらっしゃい」

最初はチラッと俺を見て
面倒臭そうに返したのだが…

ガタッ

立ち上がる勢いに
椅子がひっくり返りそうになる。

無言で俺を見つめる視線に

「…久しぶりっす…ね」

気不味くて視線を外した。

何とも言えない
戸惑いの表情を浮かべたままで

「…ああっ…」

凝視し続ける。

「お父さん?」

葵の呼び掛けに

「ん…いや…何でもない」

漸く椅子に座り直し
読み掛けの古書に目を戻した。

「…慎ちゃん行こ?」

葵に背中を押される形で階上へと向かうが

おじさんの目は古書にはなく、
俺に向かれているのを感じてた。

玄関で靴を脱ぐ俺に、

「慎輔あんたよくもノコノコと…簡単に家の敷居跨がないでよね」

茜の痛烈な罵声が頭上から
落とされる。

「大体あんた今まで何してたの?葵のhelpに耳も貸さずに」

見上げれば
階段の上から俺を見下ろす様に、仁王立ちする姿が目に飛び込む。

「よぉ茜!久しぶり」

俺の顔を見た瞬間
茜の顔が固まった。

何だよ茜もかよ…。

おじさんといい
茜といい…。

「俺の顔に何か付いてる?」

苛つく気持ちを抑え
葵に向き直ったが。

ふるふると首を振るだけで。

再び茜を見上げた。

息を飲み緊迫感を漂わせゆっくり近付いてくる。

「二人に何かあった?」

開口一番の鋭い突っ込み。

何の事を聞かれてんだ?

葵が襲われ掛けたことなのか?

何故?
って当然か…

出掛けた時と服が違うんじゃな…

おじさんもそれで?
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