幾千の夜を越え
いや…
あれはそんな感じじゃないよな?
もっとこう…俺のことを疑う…?

「何かって何?」

葵は心当たりがない様な素振りで聞き返す。

「何かって…例えば…関係持った…とか?」

茜が期待に息を飲む。

その問いで漸く俺は二人の誤解を察した。

葵と言えば…
相変わらず頭を捻り悩んでるだけ

「別に何もねぇよ」

その答えに明白にガックリと肩を落とした。

何で?

「ちょっと慎輔!あんたそれでも男なの?」

「はあ〜?
何言ってんだテメェ?
全然意味解んねぇ…」

逆ギレして怒鳴る茜に
俺も思わず声がでかくなる。

「男らしくないって言ってんのよこのフニャッ…

「っざけんなテメェ!
女のくせにそんな言葉使うな!」

茜が口走る前に慌てて遮り、

「大体テメェは似過ぎなんだよ。その顔で妙な言葉口走ってんじゃねぇよ」

怒鳴り付ける。

「うっさい木偶の坊が!
あんたがチンタラしてんのが悪いんじゃない」

茜も負けじと張り上げた。

「少しは反省して本気でやり遂げなさいよね!」

腰に当て仁王立ちしてた腕を、
胸の前で組み直す。

「又意味解んねぇこと吐かしやがってこのクソアマが俺が何を反省する必要があんだ!」

玄関先で二人の言い合いが次第にエスカレートしていく。

「本当に覚えてないのね?
情けない…それでもあんた本当に右近様なの?」

右近様?
俺は疑問符で埋め尽くされた。

「解んないならいつまでもずっと…そうしてなさい」

「茜!」

いつの間にか背後に立っていた
おじさんが茜をたしなめた。

俺が簡単に背後を取られた?

考えらんねぇ…。

いくら興奮してたからといって…いくら存在感が薄いとはいえ…。

こんなこと有り得ない。

信じらんねぇ気持ちで
脱力感に見舞われ崩れ落ちる。

「良いの!こんな奴…右近様じゃないでしょ!」

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