幾千の夜を越え
おじさんから受け取った古書を
俺はベッドに仰向けに寝そべり
眺めてみる。

表紙を一枚捲ると、
それは始まった。

ある村で一人の女の赤ん坊が
産まれる冒頭。

それは何処か徳のある家の書記の日誌なのだろう。

彼の心情が時々隠しても読み取れ如何にその女の子が待ち望まれていたのかが解る。

又、それは彼だけではなく村全体の望みだった様だ。

振りもなければ送り仮名も極端に少ない漢文の様な文章に加えて、草書体で書かれていて読み難い。

最初から解ってたことだが古文もネックとなり容赦なく立ち阻む。

中々読み解くことが出来ずに、
それを閉じてしまう。

やっぱ解んねぇんだよな…。

これが俺にどう関係するってのかまったく理解出来ずに読み進めることを断念してしまった今は、
再び頁を捲る気分にはなれそうになかった。

久々に脳ミソをフル活用したせいなのか、
半端ない睡魔に襲われた俺は、
無駄な抵抗をしようなんて考えは毛頭あるはずもなく…、
心地好い睡眠に意識を手放した。

無造作に閉じられた古書は
俺の掌をすり抜け枕元で
表紙を捲る。

それはまるで誰かが読み解く様なゆったりとしたタイミングで一頁一頁進められていく。

それが夢なのか現実なのか
不明瞭な感覚で…

唯、それを俺は静かに何処からか見ているのだった。

そう頁を捲るのは俺であって…、また別の誰かなのだ。

夢と現実の狭間で
微睡んでいる様な…。

まだ読みたての文句が、
頭の中で木霊していた。

その声に耳を傾けているうちに、意識は遥か遠くに吹き飛んでいく

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