幾千の夜を越え
代わりにそんな説明しか出来ない俺はなんて冷たい奴なんだろう。

「慎右衛門汝は右近の役を立派に果たすのだな」

「有り難きお言葉頂戴致します」

尊の嫌味を受け止める。

「右近!何処だよ?」

遠くから近付く呼び声に

「左近も参りました故…お見送り致します」

俺は尊を見上げた。

「右近見付けたぞ。
お師匠様がお呼びだ…」

年の頃は8歳といった所か?
少年が尊を見て慌てて跪。

「此方にお出ででしたか尊」

「今から戻るところじゃ。
汝も付いて参れ左近」

尊が立ち上がり歩き出す後に続き俺も左近と並んで歩く。

この視線の位置からして俺も左近と歳が近いということだろうか?

だが立烏帽子だぞ?
否、それは左近も同じだ。

右近の役って言ってたな?

右近ってことで思い付くのは、
右側近ぐらいだが…。
こんなガキ二人が尊の側近?

尊が神の化身と言われるのなら、側近も何かしらの謂れがあるのか或いは形式上遊び相手かだが?

どちらにしても、
やけにリアリティーのある夢で、設定が滅茶苦茶な割にはまともな描写だった。

右近…?
そういやどっかで聞いたな。

「右近…汝はあれが何見える?」

唐突に立ち止まった尊に
足を盗られそうになる手前で、
踏み堪える。

指差す方向には、
行く手を阻む蛇。

「愚生が退治します」

左近が腰刀に添えた手を押さえ、

「ならん!
尊の前で殺生は許されんぞ左近。あの蛇は悪さは致しませんので、ご安心してお通りください」

尊を促した。

「嫌じゃ余は通らぬぞ!」

尊が後退り俺の胸に
張り付く。

「愚生が通り抜けてご覧見せます故に、何もなければ尊もお通りに成れます」

そう言って
左近は蛇の脇をすり抜けた。

「さあ、尊の番で御座います。
左近が横を通り過ぎましたが、
蛇は動きもしませんでしたよ」

「嫌じゃ!余は通らぬ」

泣き出す尊の前に背を向け屈む。

無言のままで尊は背負われた。

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