幾千の夜を越え
「…ん…ちゃん…慎ちゃん」

葵の声で引き戻された。

「…ん?」

軽く伸び上がり、
欠伸をする俺に。

「早く起きなきゃ遅刻しちゃう」

葵が声を掛ける。

「夢…か?」

まだぼんやりしたまま呟いた俺に

「夢?どんな?」

馬乗りになった葵を抱きすくめ、

「忘れた…」

唇を重ねた。

葵は恥ずかしさからか、

「本当に遅刻しちゃうから…」

部屋を飛び出して行く。

首を回しながら後に続いた。

ダイニングには朝食の支度が調い葵がつけた白米からは湯気が立つ

「先にシャワー浴びてくるわ…」

俺の呟きに、
慌てて腕を捕る。

「駄目だよ!時間ないってば」

泣きそうな葵に
仕方なく席に着いた。

葵が片付けをする間に部屋に戻り制服に着替えリビングに戻ると、既に待ち構えていた彼女に腕を
引かれて家を飛び出す。

足早に歩く葵と並んで歩く俺は、シャワーが浴びれなかったからか頭に靄がかかりスッキリしない。

何か大切なことを忘れている様なそれが何かも…果してマジ忘れをしてるのかも…解らないまま。

校門を潜る列に交ざった。

門柱を背に寄り掛かる男の視線を感じ見ると目が合う。
逸らさずにずっと見続けるヤツは俺が通り過ぎる瞬間

「久し振りだな右近!
やっとお目覚めか?」

声を掛ける。

「……」

心当たりのない俺は、
それを遣り過ごす。

「無視するとは良い度胸だな。
仕方ないか…情けないアンタは、使命も守らず逃げた男だからな」

制服が違うのを見ると
他校生だろうな。

誰かと俺を間違えてるのか?

恥ずかしいヤツだな…。

「慎ちゃん?今の人知り合い?」

葵がヤツと俺を交互に見てから、訊ねた。

その頭を鷲掴みにして
俺に向かせると

「あんなヤツは知らねぇな…」

キッパリ言い切った。

< 41 / 158 >

この作品をシェア

pagetop