幾千の夜を越え
蹴られた足を擦りながら
奴が耳打ちをする。

「けど…女って演技すんだよな?アイツ俺が初めてじゃなかった」

見るからに落ち込む奴に
耳打ちする気には為れず
声を潜めた。

「初めてじゃねぇのが気に何の?小せぇ男だな…惚れた女の事なら受け止められんだろ?」

「違う!」

ムキになって否定する奴を見上げ

「んじゃ何?
テクニックでカバーしてんだろ?女悦ばせてんじゃねぇのかよ?」

奴の虚勢心を揺さぶる。

「女が演技すんのはお前に悦んで欲しいからだろ?
お前に惚れてる証拠じゃねぇの?良いんじゃねぇ…お互い気持ちがありゃさそのうちに希望を言って来るようになると思うぜ?」

黙って拳を握り締めて聞いていた奴がニヤッと口角を上げた。

「お前ってマジで嫌な奴だよな!このミスターパーフェクトが…絶対敵には回したくねぇんだよ」

褒め言葉なのか嫌味なのか…、
どちらとも取れる奴なりのお礼に

「貶してくれてありがとう」

俺も応戦する。

「ほら席着けよ!」

教室前方のドアを開けて担任が
入ってくると同時に声を掛けた。

俺の机の周りを占拠していた女共に混じって奴も席に戻った。

「急な話だが転校生を紹介する」

担任の後に続き入って来たのは、

「左山陽太…」

今朝の勘違い男。

驚きに目を見開き、
奴を凝視する。

教室内を見渡す奴が俺の前で止め視線を逸らすことなく近付き。

「悪ぃけどあんちゃん…
席変わったって」

隣の机に両手を付く。

「先生俺の席此処でエエですわ」

振り向くことさえせずに
言い放つ。

「左山…そんな勝手は…」

担任が止める声を制し、

「此処でエエですわ…」

同じ台詞を繰り返した。

何が起きたのか、

元のヤツは
席を立ち空いた場所へ移動し
担任さえも
何事もなかったかの様に
ホームルームを始める。

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