幾千の夜を越え
難なく隣の席を手に入れた左山は

「エライ人気者やな右近」

机に頬杖を付き俺を直視する。

「転校生だったのか…。
噂で聞いたのか知らねぇけどな、俺の名前は右川だ右近じゃねぇ」

「なぁ右近封印してんねやろ?」

左山はそれを鼻で笑って続ける。

「中々表に出さへんから、
探すの苦労したんやで?
アンタ余程間抜けな最期やったんやな…。
復活すんのんにエライ時間掛かったんやないか?
待ちくたびれたわ〜」

コイツの言ってる意味がさっぱり解らねぇ。

「アンタさ…誰と勘違いしてんのか知らねぇけどやり過ぎはイタイんじゃねぇの?」

両手をポケットに突っ込んだまま前方を見据えて言った。

左山は納得した訳でも無いらしく「ふ〜ん」と乾いた返事に続き、

「誤魔化すんのならそれでエエ。せやけど隠しきれなぁなんで…。認めなしゃあななるわ」

口元を緩める。

どうあっても俺を右近って男に
したいらしい。

右近…。

何だ?
何かが引っ掛かる。
どっかで聞いたか?
それも極最近…。

思い出そうと 過去を探り出す。

胸の前で腕を組み首を捻る。

今朝から徐々に遡って行くが、
靄の掛かった頭ではその記憶だけ曖昧なままだった。

記憶のさざ波に掴み掛けた糸は、あっさりとすり抜けていく。

脳味噌の色んな部分が活発に活動を始めるのが自分でもよく解る。

だが思い出すことを拒む何かが、
邪魔しているとさえ錯覚する程にきっかけの糸口さえ掴み取ることも出来ず時間だけが過ぎていく。

俺が黙り込んだのを拒否の姿勢と捉えたのか何か意図があるのか、左山はそれ以上話し掛けてくることはなかった。

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