幾千の夜を越え
おじさんに言われるがままに
葵を連れて帰っては来たものの
落ち着かない。

葵とあってはやはり状況を楽しむばかりで…。

「子供の頃のお泊まり会みたい!わくわくしちゃうね?」

無邪気にはしゃいでる。

俺の部屋の階にある
客間に布団を用意してると

「えっ…
慎ちゃんの部屋じゃないの?」

心臓に悪いことを平気で言い。

「前は一緒に寝てたのに…」

悪魔の如く…
拗ねた素振りを見せつける。

何時の話だよ。

天然にも程がある葵に構わず

「俺部屋戻るわ…」

背を向けた。

何だっておじさんは
葵を寄越したんだ?

俺に地獄の時間を過ごさせる為?

どんだけ葵を大事に思ってるのか確かめる為?

ベッドに仰向けに倒れ込み
おじさんに借りた古書に
手を伸ばす。

読み掛けの頁を探す為
パラパラと数頁捲ってみる。

ぅん?

何時の間にか結構進んでんだな。

何百年に一度生誕すると言われる氏神の娘と崇められた10歳の娘。氏子を守るが為に親元から離され下々の者からも隔離された生活を送っていた。

日頃より氏子が為と日が昇る前にお清めと称した滝打ちに始まり、祭の祝詞に舞いと何時間に及ぶ禅

読み解く必要もなく
情景が浮かび上がる
頁を捲っていく。

娘に心身共に捧げる二人の少年も又氏神の娘に併せ生誕していた。

尊の守りを司る右近と左近も
己の身体を鍛え抜き
政に精通し世情の神髄を
見極める眼を持っていた。

右近…に、
左近…だと?

己の未熟さを嘆き役目を全うする左近に対し、
然程の苦労もなく器用に熟し常に優位に立つ右近。

尊もまた右近によく懐いていた。

どういう事だ?

引き込まれる様に読み進めていく俺の耳にドアを遠慮がちにノックする音が届いた。

読み掛けの頁を下に伏せ
立ち上がりドアを開ける。

「どうした?」

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