幾千の夜を越え
枕を抱えた葵がそれに顔を埋め、見上げる。

「一人で眠れないの…一緒に寝て良いでしょ?」

勿論ダメだなんて言える筈もなく

「…どうぞ」

葵を部屋へ招き入れた。

セミダブルサイズのベッドなら
二人で眠るのも問題ない広さだが俺の躰は問題が山積みだった。

並んで横たわる葵は
上機嫌で俺を見つめていた。

「灯り消すぞ?
肩まで布団掛けろよ?」

葵の肩に布団を引き上げ
電気を消す。

「真っ暗だね…」

葵の囁きに

「ん?ロー電にするか?」

俺はリモコンに手を伸ばし掛け、

「ん?大丈夫だよ?」

その手を葵が引き留め。

「こうして繋いでて…」

指を絡める。

「外ではダメでも…此処でなら…言いよね?」

暗闇に慣れ始めた俺の目に、
切な気な微笑を浮かべる葵が
映った。

「悪ぃ葵…ゴメンな?」

その時に初めて葵の傷を見た。

俺の心無い言動で付けた傷を癒す為に葵を胸に抱き寄せる。

やがて静かな寝息を感じた俺は、葵からそっと離れ閉じられた瞼に唇を寄せた。

再び閉じられた古書は
サイドテーブルの上で
頁を開かれるのを待っている。

葵の顔に掛かる髪を払い
その穏やかな顔を見つめる。

今度こそ
彼女が笑っていられる
日々が続くことを…
何故か願っていた。

今度こそって何だ?
確かに何度も危険な目には
遭ってきてはいるが…。
俺が守って来ている。

なのに…何故?

不穏な陰の存在に
気付いていたのか…

或いは…
俺の中の心境の変化か…

何れにしろ
今はまだその小さなわだかまりは別の衝動に身を隠して行った。

「ヤベェ限界かも…」

柔らかさを知ってる膨らみに
伸びそうになる度に手を強く
握り締める。

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